昔、一枚の名刺をくれた青年がいた。
名刺だけでなく、サインまでくれた。頼んでもいないのに。
小柄で、筋肉はあるのかもしれないが、ひょろりとした体つきで、
「絶対に大物プロレスラーになります。大成しますから!」と、まるで宣言するように言った。
正直なところ、私は内心首をかしげていた。プロレスラー? この人が?
それから何十年も経って、ふと思い出して名前を検索してみた。
画面の向こうに現れたのは、見まごうばかりのがっしりとした体格の男性だった。
北海道を舞台に、リングの上でも、市議会の場でも、堂々と立っている。
私がひそかに疑っていたあの青年が、自分の言葉通りの人生を生きていた。
思えば、もう一人いる。
かつて仕事で接点のあった、少し変わった響きの名前を持つ男性。
最近、どこかで聞いたような気がして調べてみたら、ピン芸人の漫談家として舞台に立っていた。
人が持つ夢への力を、私は少しだけ軽く見ていたのかもしれない。
彼らは誰かに信じてもらえなくても、ちゃんと自分を信じていたのだ。
頼んでもいないサインを渡すくらいの、根拠のない確信を持って。
その確信こそが、いちばん大切なものだったのかもしれないと、今は思う。
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